ナいる。窓の明りが左手から斜《ななめ》に差し込んで、緑の羅紗《らしゃ》の張ってある上を半分明るくしている卓である。
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この秋は暖い暖いと云っているうちに、稀《まれ》に降る雨がいつか時雨《しぐれ》めいて来て、もう二三日前から、秀麿の部屋のフウベン形の瓦斯煖炉《ガスだんろ》にも、小間使の雪が来て点火することになっている。
朝起きて、庭の方へ築《つ》き出してある小さいヴェランダへ出て見ると、庭には一面に、大きい黄いろい梧桐《ごとう》の葉と、小さい赤い山もみじの葉とが散らばって、ヴェランダから庭へ降りる石段の上まで、殆ど隙間もなく彩《いろど》っている。石垣に沿うて、露に濡《ぬ》れた、老緑《ろうりょく》の広葉を茂らせている八角全盛《やつで》が、所々に白い茎を、枝のある燭台《しょくだい》のように抽《ぬ》き出して、白い花を咲かせている上に、薄曇の空から日光が少し漏れて、雀《すずめ》が二三羽鳴きながら飛び交わしている。
秀麿は暫く眺めていて、両手を力なく垂れたままで、背を反《そ》らせて伸びをして、深い息を衝いた。それから部屋に這入《はい》って、洗面|
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