気味の悪い偉大な全体の印象が意識に登つた丈であつたのでございます。其内に少し気が落ち着いて来ましたので、わたくしは見るともなしに渦巻の底の方を覗いて見ました。丁度船が漏斗の壁に引つ掛かつてゐる工合が、底の方を覗いて見るに、なんの障礙《しやうがい》もないやうな向になつてゐたのでございます。船は竜骨の向に平らに走つてゐます。と申しますのは、船のデツクと水面とは并行してゐるのでございます。併し水面は下へ向いて四十五度以上の斜な角度を作つてゐます。そこで船は殆ど鉛直な位置に保たれて走つてゐるのでございます。その癖そんな工合に走つてゐる船の中で、わたくしが手と足とで釣合を取つてゐますのは、平面の上にゐるのと大した相違はないのでございます。多分廻転してゐる速度が非常に大きいからでございませう。」
「月は漏斗の底の様子を自分の光で好く照らして見ようとでも思ふらしく、さし込んでゐますが、どうもわたくしにはその底の所がはつきり見えませんのでございます。なぜかと申しますると、漏斗の底の所には霧が立つてゐて、それが何もかも包んでゐるのでございます。その霧の上に実に美しい虹が見えてをります。回教徒《ふい/\け
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