し込めたような人たちでさえ、事、借金に関する限り、「それは弁護士に一任してあるのだから、俺は知らない」の一言をきくに尽きていた。
ところで、栗林儀作も、とうとうその始末にいけない朱印の文書を受取らされた一人であった。彼は北支で鉄道の警備に任じている忰へ古谷からの借金についてのあの手紙を出して間もなく、その配達に接したのであった。先代同様に、いや、先代よりはとにかく東京という文化都市――…………………………………………………………………………後藤新平の言ったとおり、世界で何番目かの大都にこの十年間に見ンごと盛り上ったそこで、長い間教育され、そこの華やかな空気を吸って来ているだけ、当主傅介氏は[#「傅介氏は」はママ]、忰にも書いてやったように物分りがいいであろうと考えていた事実は、今になってあべこべのように思えてきた。だが、彼は人の多くとは違い、もと、挽子として出入りしていて、若旦那のことも子供の時分から知っていた。若旦那の方でも俺のことは知らぬはずがないと彼は考え直した。そこで、他の村人が何回足を運んでも弁護士云々の一語によって手もなく追っ払われるときいても、彼は自分だけはそんなことは
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