っていたが、私も何となく、河原が広いという感じがしたし、東京を遠く離れてやって来たという感じが沁々としたのである。昔、在原業平が遠く都を離れて東《あずま》へ来た時に、都鳥を見て読んだ、
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名にしおはばいざこと問はん都鳥
我が思ふ人はありやなしやと
[#ここで字下げ終わり]
 という歌を思い出して、私は何か知らそういった気持になったことがあった。
 今日はスピード時代で、東京を遠く離れた所も汽車でわけなく行かれるのであるが、しかし、旅で夕方などになると、随分遠い所に来たような感じがする。これは音楽に関係したことではないけれど、私はスピードという言葉で思い出したが、最近はフランスあたりから飛行機で、四日間ぐらいで日本に飛んで来られるようになっている。そういうことのある度に、私は残念に思っていることは、自分の頭や、仕事は、なかなかスピードが出ないことである。私は将来まだ沢山研究したい事があるので、それをやり遂げるためには、今よりもっと、頭にスピードをかけて、勉強しなければならないと思っているのである。



底本:「心の調べ」河出書房新社
   2006(平成18)年8月30日初版発行
初出:「水の変態」宝文館
   1956(昭和31)年8月1日
入力:貝波明美
校正:小林繁雄
2007年8月13日作成
青空文庫作成ファイル:
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