音の世界に生きる
宮城道雄

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)欧氏管《おうしかん》を

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)めくら[#「めくら」に傍点]と
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    幸ありて

 昨年の暮、一寸風邪をひいて欧氏管《おうしかん》を悪くした。普通の人ならたいして問題にすまいこのことが、九つの年に失明を宣言されたその時の悲しみにも増して、私の心を暗くした。もし耳がこのまま聞こえなくなったら、その時は自殺するよりほかはないと思った。音の世界にのみ生きて来た私が、いま耳を奪われたとしたら、どうして一日の生活にも耐え得られようかと思った。幸い何のこともなく全治したが、兎に角今の私には、耳のあることが一番嬉しくまた有難い。
 私は、生れて二百日くらいから眼の色が違っていたそうであるが、それが七つの頃から段々見えなくなった。その為に学校に上れなかったが、それが当時の私には何より残念だった。めくら[#「めくら」に傍点]といわれるのがどうにも口惜しくてならなかった。それで無理に見えるふりをして歩いて、馬力につき当ったり泥溝に落ちたりして怪我をした
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