あ皆、馬券を買ふてどれだけ取られたと騒いで居るが一向勝手が分らぬ、それから出鱈目に殆ど見徳のやうな工合に馬券を買ふて見た。一向に当らぬ、何でも八競馬か九競馬目位に矢張り見徳で買ふた馬、確か番号は五やつたと思ふ。見事に端の切つ放しで第一着に這入つて呉れた、是が私の競馬に這入り始めで成程面白いと云ふ事を感じた。さあ少なくも十円が五六十円若くは百円位になつたであらうと喜んで、払戻口へ行くと、十円五十銭の札が掛つて、詰り五十銭より儲けがなかった。結局其日は百円ばかり損して帰つた。それが病附で、其明くる日には連中一同計つて新富亭の木戸上り五十円で天切をして、是で馬券を買ふ事に協議の結果定まつて、で共同金の五十円を以て矢張殆ど見徳のやうな工合で順々に五枚買ふた。其中で三つ当つて五十円の金が二百何某になつた。それをば詰り木戸上りに代へて割に割つたら、今迄寄席で出た事のない席の割が取れたこともありました。其五十円を丸損したら客が来なかったものとし、勝つたら客が其金高だけ寄席に来たものとして、取つて割りました。中々其経緯は面白かつたものです。
それから東京へ戻つても其当時は松戸、板橋、川崎と一日も欠かさず走り歩いて見て居つた。其当時役者で好きなのは矢張今の歌右衛門さんであつた。私は競馬の一番嬉しい勝ちやうをしたのは板橋の競馬であつた、第十一競馬が新馬競走で之を見て居ると、席に遅うなるので諦めて帰り掛ると扇を拾つた。そこから又見徳と云ふ心を出して扇を拾つたからオ[#「オ」に傍点]の附く馬を買はうと出馬の名前を見ると、大山と云ふ馬が出た。何心なく扇を拡げて見たら大山大将の写真が這入つて居つた。此時はもう買はぬ内から取れたやうな気持がした、で大枚二枚を買ふて見た。すると端を切つ放しで物の見事に一着を取つた。配当は六百何某であつたよつて二枚買ふて、千二百何某の金を取つて、あゝ大威張で五人乗りの車に乗つて宅へ帰つたことがある。
それから間もなく馬券と云ふものが廃止になつた。よつて暫くは無沙汰して居つた、すると公認競馬で、馬券でなく商品券と云ふ塩梅にして十円の入場料で、二円券を五枚づつ呉れることになつたので、それで又夢中になつて行つて居つた其頃には取敢ず御客も今のやうに這入つて居らぬので、競馬場も閑静なものであつたが、何時しか又馬券が復活すると云ふ噂が立つと同時に、追々と又競馬が盛になつて来
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