が枯れたかどうかして、ただ十一本しか残っていなかったと聞いた。たぶん井下君はそれを上野公園のどこかへ植えさせたのであろうと思うが、今日そのオオヤマザクラがいずれの地点に栽わっているのか、私には判然していない。もしも右の樹が枯れずに生長しつつあるとすれば、今日ではもはや花が咲かねばならぬのだが、それが果して毎春咲きつつあるや否や、見きわめたいものである。もし幸いにその樹が枯れずにあって年々花が咲きおるとすれば、上に述べた人の知らない私の心づくしもいくぶん酬いられるわけであるが、今それがどうなっているのやら。
 寒ザクラはむろんわが日本のものであれど、しかし今日までまだどこにも野生のものが見つからない。これはことによるとヤマザクラとヒカンザクラ(緋寒桜、学名はプルーヌス[#「プルーヌス」は底本では「ブルーヌス」]・カンパヌラータ(Prunus campanulata, Maxim.)とのあいの子かも知れぬ。またそう思わせる資質を現わしているが、それが果してそうかどうかはにわかに判断がつかない。ヤマザクラと緋カンザクラとはだいぶ花時が食い違っていれど、しかし早く咲いたヤマザクラと遅く咲いた緋
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