台湾征伐以来反目している日本と中国との間に仲裁者として登場した。ついで朝鮮にたいしては、日本を水先案内としてイギリスに対抗した。この英・米の対立競争を巧《たくみ》に利用したところに陸奥宗光《むつむねみつ》外交が不平等条約の改正に成功した秘密がある。
 ポーツマスでアメリカが日露戦争の仲裁役を買って出たのも、ペリー来航いらい一貫してもっていた「日本を足がかりにしたアジア進出」という年来の野望をとげようとするこんたんであったといえる。

[#7字下げ]第二の開国[#「第二の開国」は中見出し]

 百年来のこんたんを百年目にちょうど実現したものといえようか。それがサンフランシスコ条約であり、日米安全保障条約であり、行政協定であり、今また批准《ひじゅん》されようとしている日米通商航海条約だということができよう。百年前黒船がきたときに、われらの祖先は直観的に祖国の独立がおびやかされることを感じとった。尊王と結びついたためにゆがめられた形で表現されていたが、それは半植民地化の危機にたいする愛国の本能である。いま百年ごの「第二開国」にあたって、一部の志士ではなく、日本国民の最大多数の階級である労働者、農民、民族資本家、インテリゲンチアが百年前の憂いと憤りとを百倍してもまだ足りないのではなかろうか。



底本:「黒船前後・志士と経済他十六篇」岩波文庫、岩波書店
   1981(昭和56)年7月16日第1刷発行
底本の親本:「服部之総全集」福村出版
   1973(昭和48)〜1975(昭和50)年
初出:「新しい世界」
   1953(昭和28)年7月号
入力:ゆうき
校正:小林繁雄
2010年4月20日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全2ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
服部 之総 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング