乗こそ、一八五一年の「七つの海」――太平洋とシナ海とインド洋と大西洋を掌握した米国海運業の、そしてそれが起因をなしたカリフォルニア黄金狂時代の、もっとも美しい誇らしいシンボルだったのだ。
 速力の点では三角路の方が距離においてずっと長かったにかかわらず、英船の往復日数に比べて約一ヶ月の差しかなかった。いわんや同一の上海ロンドン間では、五〇年代のスピード・レコードは一つ残らず米船に占められている。

[#7字下げ]七 最初の横断汽船[#「七 最初の横断汽船」は中見出し]

「フライング・クラウド」に象徴されたカリフォルニアン・クリッパーは近代資本主義最初の東廻選手として、世界を西からでなく東から円形に仕上げた。「和親」条約はその帆船路に黒船の煙をたなびかせるための条件達成をいみした。五〇年初頭のマルクスの予見どおりに、運命は黄金狂時代のアメリカ合衆国に微笑みかけ、微笑みつづけるもののようだ。
 しかるに、ハリスのもとにお吉《きち》が通う日が来ても、汽船は太平洋を渡らなかった。そればかりでなく、ひとたび東廻選手によってほとんど独占されたシナ英国間の茶貿易に、ふたたび激烈な英米帆船の競争時代
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