から微《かす》かに差《さ》し込《こ》む陽《ひ》の光《ひかり》を頼《たよ》りに、油皿《あぶらざら》のそばまで持《も》って行《い》った松《まつ》五|郎《ろう》は、中指《なかゆび》の先《さき》で冷《つめ》たい真鍮《しんちゅう》の口《くち》を加減《かげん》しながら、とッとッとと、おもく落《お》ちた油《あぶら》を透《す》かして見《み》たが、さてどうやらそれがうまく運《はこ》ぶと、これも足《あし》の先《さき》で探《さぐ》り出《だ》した火口《ほくち》を取《と》って、やっとの思《おも》いで行燈《あんどん》に灯《ひ》をいれた。
ぱっと、漆盆《うるしぼん》の上《うえ》へ欝金《うこん》の絵《え》の具《ぐ》を垂《た》らしたように、あたりが明《あか》るくなった。同時《どうじ》に、春重《はるしげ》のニヤリと笑《わら》った薄気味悪《うすきみわる》い顔《かお》が、こっちを向《む》いて立《た》っていた。
「松《まつ》つぁん。おめえ本当《ほんとう》に、女《おんな》の匂《におい》は、麝香《じゃこう》の匂《におい》だと思《おも》ってるんだの」
「そりゃァそうだ。こんな生皮《なまかわ》のような匂《におい》が女《おんな》の匂《
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