我《けが》でもしたのではないかと、穴《あな》のあく程《ほど》じッと見詰《みつ》めながら、静《しず》かに肩《かた》へ手《て》をかけたが、いつもと様子《ようす》の違《ちが》ったおせんは、母《はは》の手《て》を振《ふ》り払《はら》うようにして、そのまま畳《たたみ》ざわりも荒《あら》く、おのが居間《いま》へ駆《か》け込《こ》んで行《い》った。
「どうおしだよ、おせん」
「お母《っか》さん、あたしゃ、どうしよう」
「まァおまえ。……」
「吉《きち》ちゃんが、――あの菊之丞《きくのじょう》さんが、急病《きゅうびょう》との事《こと》でござんす」
「なんとえ。太夫《たゆう》さんが急病《きゅうびょう》とえ。――」
「あい。――あたしゃもう、生《い》きてる空《そら》がござんせぬ」
「何《なに》をおいいだえ。そんな気《き》の弱《よわ》いことでどうするものか。人《ひと》の口《くち》は、どうにでもいえるもの。急病《きゅうびょう》といったところが、どこまで本当《ほんとう》のことかわかったものではあるまいし。……」
「いえいえ、嘘《うそ》でも夢《ゆめ》でもござんせぬ。あたしゃたしかに、この耳《みみ》で聞《き》いて来《き》ました。これから直《す》ぐに市村座《いちむらざ》の楽屋《がくや》へお見舞《みまい》に行《い》って来《き》とうござんす。お母《っか》さん、そのお七の衣装《いしょう》を脱《ぬ》がせておくんなさいまし」
「えッ、これをおまえ」
「吉《きち》ちゃんが、去年《きょねん》の芝居《しばい》が済《す》んだ時《とき》、黙《だま》って届《とど》けておくんなすったお七の衣装《いしょう》、あたしに着《き》ろとの謎《なぞ》でござんしょう」
「それでもこれは。――」
「お母《っか》さん」
おせんは、部屋《へや》の隅《すみ》に立《た》てかけてある人形《にんぎょう》の傍《そば》へ、自分《じぶん》から歩《あゆ》み寄《よ》ると、いきなり帯《おび》に手《て》をかけて、まるで芝居《しばい》の衣装着《いしょうつ》けがするように、如何《いか》にも無造作《むぞうさ》に衣装《いしょう》を脱《ぬ》がせ始《はじ》めた。
「お止《よ》し」
「いいえ、もう何《な》んにもいわないでおくんなさい。あたしゃお七とおんなじ心《こころ》で、太夫《たゆう》に会《あ》いに行《ゆ》きとうござんす」
ばらりと解《と》いたお七の帯《おび》には、夜毎《
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