《となりざしき》を気にしながら、更《さら》に声《こえ》を低《ひく》めた。
「怖《こわ》がるこたァねえから、後《あと》ずさりをしねえで、落着《おちつ》いていてくんねえ。おいらァ何《なに》も、久《ひさ》し振《ぶ》りに会《あ》った妹《いもうと》を、取《と》って食《く》おうたァいやァしねえ」
「あかりを、つけさせておくんなさい」
「おっと、そんな事をされちゃァたまらねえ。暗《やみ》でもてえげえ見《み》えるだろうが、おいらァ堅気《かたぎ》の商人《しょうにん》で、四|角《かく》い帯《おび》を、うしろで結《むす》んで来《き》た訳《わけ》じゃねえんだ。面目《めんぼく》ねえが五一三分六《ごいちさぶろく》のやくざ者《もの》だ。おめえやお袋《ふくろ》に、会《あ》わせる顔《かお》はねえンだが、ちっとばかり、人《ひと》に頼《たの》まれたことがあって、義理《ぎり》に挟《はさ》まれてやって来《き》たのよ。おせん、済《す》まねえが、おいらの頼《たの》みを聞《き》いてくんねえ」
「そりゃまた兄《あに》さん、どのようなことでござんす」
「どうのこうのと、話《はな》せば長《なげ》え訳合《わけあい》だが、手《て》ッ取早《とりばや》くいやァ、おいらァ金《かね》が入用《いりよう》なんだ」
「お金《かね》とえ」
「そうだ」
「あたしゃ、お金《かね》なんぞ。……」
「まァ待《ま》った。藪《やぶ》から棒《ぼう》に飛《と》び込《こ》んで来《き》た、おいらの口《くち》からこういったんじゃ、おめえがかぶりを振《ふ》るのももっともだが、こっちもまんざら目算《もくさん》なしで、出《で》かけて来《き》たという訳《わけ》じゃねえ。そこにゃちっとばかり、見《み》かけた蔓《つる》があってのことよ。――のうおせん。おめえは通油町《とおりあぶらちょう》の、橘屋《たちばなや》の若旦那《わかだんな》を知《し》ってるだろう」
「なんとえ」
「徳太郎《とくたろう》という、始末《しまつ》の良《よ》くねえ若旦那《わかだんな》だ」
「さァ、知《し》ってるような、知《し》らないような。……」
「ここァ別《べつ》に白洲《しらす》じゃねえから、隠《かく》しだてにゃ及《およ》ばねえぜ。知《し》らねえといったところが、どうでそれじゃァ通《とお》らねえんだ。先《さき》ァおめえに、家蔵《いえくら》売《う》ってもいとわぬ程《ほど》の、首《くび》ッたけだというじゃねえ
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