のあたりの暗《くら》さを幸《さいわ》いにして、鼻《はな》から先《さき》へ突出《つきだ》していた。
が、いつもなら、人《ひと》にいわれるまでもなく、まずこっちから愛嬌《あいきょう》を見《み》せるにきまっていたおせんが、きょうは何《な》んとしたのであろう。靨《えくぼ》を見《み》せないのはまだしも、まるで別人《べつじん》のようにせかせかと、先《さき》を急《いそ》いでの素気《すげ》ない素振《そぶり》に、一|同《どう》も流石《さすが》におせんの前《まえ》へ、大手《おおで》をひろげる勇気《ゆうき》もないらしく、ただ口《くち》だけを達者《たっしゃ》に動《うご》かして、少《すこ》しでも余計《よけい》に引止《ひきと》めようと、あせるばかりであった。
「もし、そこを退《ど》いておくんなさいな」
「どいたらおめえが帰《かえ》ッちまうだろう。まァいいから、ここで遊《あそ》んで行《ゆ》きねえ」
「あたしゃ、先《さき》を急《いそ》ぎます。きょうは堪忍《かんにん》しておくんなさいよ」
「先《さき》ッたって、これから先《さき》ァ、家《うち》へ帰《かえ》るより道《みち》はあるめえ。それともどこぞへ、好《す》きな人《ひと》でも出来《でき》たのかい」
「なんでそんなことが。……」
「ねえンなら、よかろうじゃねえか」
「でもお母《っか》さんが。――」
「お袋《ふくろ》の顔《かお》なんざ、生《うま》れた時《とき》から見《み》てるんだろう。もう大概《たいがい》、見《み》あきてもよさそうなもんだぜ」
「そうだ、おせんちゃん。帰《けえ》る時《とき》にゃ、みんなで送《おく》ってッてやろうから、きょう一《いち》ン日《ち》の見世《みせ》の話《はなし》でも、聞《き》かしてくんねえよ」
「お見世《みせ》のことなんぞ、何《な》んにも話《はなし》はござんせぬ。――どうか通《とお》しておくんなさい」
「紙屋《かみや》の若旦那《わかだんな》の話《はなし》でも、名主《なぬし》さんのじゃんこ[#「じゃんこ」に傍点]息子《むすこ》の話《はなし》でも、いくらもあろうというもんじゃねえか」
「知《し》りませんよ。お母《っか》さんが風邪《かぜ》を引《ひ》いて、独《ひと》りで寝《ね》ててござんすから、ちっとも速《はや》く帰《かえ》らないと、あたしゃ心配《しんぱい》でなりませんのさ」
「お袋《ふくろ》さんが風邪《かぜ》だッて」
「あい」
「そい
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