いボロ布団にねたが、淋しくて寒くて仕方がない。大声で桂子を呼びたて、彼女のピチピチした身体をしっかと抱いたまま眠る。桂子の話だと、世の中には、そうして他人が横に寝ていることに刺激を感じ、交合を好む男女がいるそうだが、私はふたりだけの時は、思い切って開放的で恥知らずの交合を好む癖、誰かに見られていると思うと、それだけで、まるで勇気を失ってしまう男なのだ。
 私は帰ってきた蕩児《とうじ》として、前以上に桂子が好きだった。彼女のためなら、自分の文学も、自分の一生も、不憫《ふびん》な子供たちも、いっさい、失ってもよいとまで思いつめていた。しかし、前回と違い、桂子の物欲の強くなっているのにはかなり悩まされた。彼女は再び私と一緒になることを喜んで承知したが、その代り、
「わたし、お店に出て、いろんなことを覚えたわ、愛情は物質と平行するものよ、わたし、着物も欲しいし、うんと贅沢《ぜいたく》させてくれなくてはイヤ、ネ、女の虚栄というものを理解して頂戴」
 ああ、これが私との逢いはじめに、私が、ボロボロのジャンパーに軍靴をはき、「ぼくは身なりをあまりかまわない男ですよ。それに貧乏作家で、あなたに贅沢をさ
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