くと、笑いかける内田さん、中村|嬢《じょう》の顔にも答えず、真《ま》ッ赧《か》な顔をして、そのまま宿舎にとび込《こ》みました、と、後ろから、花やいだ笑い声が、追い駆けてきて、「ぼんち、秋っペがいないんで、腐《くさ》ってるのね」確か、中村嬢の声でした。続いて東海さんの低音《バス》が、小声でなにか言っています。また、なにかぼくの蔭口ではないかと、焦々《いらいら》している耳に、内田さんの声が、「熊本さん、この頃、とても、しょげているのよ。可哀《かわい》そうよ」「ぼんちのことで」と誰か女のひとが、訊《き》き返している様でした。ぼくは耳を塞《ふさ》ぎ、声を大にして、「煩《うる》さいッ」とでも、怒鳴《どな》りつけてやりたかった。続いて、聞えてきたのは、太い調子のひそひそ声で、なにか陰険《いんけん》な悪口か、猥褻《わいせつ》な批判らしく、無遠慮に響《ひび》いてくる高らかな皆の笑い声と共に、ぼくは又《また》、すっかり悄気《しょげ》てしまったのです。
 女の人達が帰ってから、ぼくの狸寝《たぬきね》をしている部屋に、松山さんと、沢村さんが入って来ました。松山さんは、殊《こと》の他《ほか》、御機嫌《ごきげん
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