トロオの養狐場《ようこじょう》を、ただ訳もなく遊び歩いたのも、ひたすら手近な享楽で、眼の前に蓋《ふた》をしている気持でした。
 夜、ロスアンゼルスからの帰りに、自動車を停《と》めさせ、皆《みんな》が一斉《いっせい》に降りたって、小便をしたとき、故国日本を想《おも》いだすような、蛙《かえる》の鳴声をきいたことも、仄《ほの》かに憶《おぼ》えています。或いは、海水浴場の近くで、六十|歳《さい》前後の老人夫婦から、十五歳位の少年少女のカップルに至《いた》るまで、ダンスを愉《たの》しんでいるホオルを覗《のぞ》いたことも、ダウンタアオンで五|仙《セント》を払《はら》い、メリイゴオランドの木馬に跨《また》がったことも、ボオルを黒ん坊《ニグロ》[#「黒ん坊」にルビ]にぶつけて、亜米利加《アメリカ》美人を落したことも――。
 その黒ん坊が、意外にも日本人だったのです。虎《とら》さんが、ボオルを握《にぎ》って、モオションをつけると、いきなり黒ん坊が鮮《あざ》やかな日本語で、「旦那《だんな》はん、やんわり、頼《たの》みまっせ」と言い、ぼく達が、驚《おどろ》き呆《あき》れていると、「顔は黒う塗《ぬ》ってますが、心は同じ日本人でさア」その言葉の終らないうちに、虎さんの直球が、黒ん坊の額にはずみ、彼が引繰《ひっく》り返ると、そのはずみに仕掛《しかけ》が破れ、右上の鳥籠《とりかご》に腰《こし》かけていた亜米利加美人がばちゃんと、下のプウルに落ちこみました。
 さては、射的場で、兎《うさぎ》を撃《う》ったことも、十仙出して本物のインディアンと腕角力《うでずもう》をしたことも、マジック・タアオンの鏡の部屋で――。
 そうだ、マジック・タアオンで、起ったあなたについての幻想《げんそう》を書いてみましょう。
 金十五仙なりを払って、魔術《まじゅつ》の街の入口の真暗い部屋に入り、その部屋をぬけると、長い廊下《ろうか》がありました。やはり、手探りしながら、歩く暗さで、暫《しばら》くゆくと、突然《とつぜん》、足下の床《ゆか》が左右に揺《ゆ》れだし、しっかり踏《ふ》みしめて歩かぬと、転げそうでした。廊下の行詰りになった壁《かべ》をおすと、薄暗《うすぐら》い寝室《しんしつ》で、ランプがついていて、マントルピイスの上が白く光るので、近よってみると、人骨がばらばらにおいてあるのでした。子供だましみたいなので、微笑《ほ
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