ト肉に反抗するものとは見做さない。又自然の全ての現象をば『神聖』とは呼ばないのである。新道徳は肉と霊に神聖なる二個の形[#「神聖なる二個の形」に傍点]を見るのである。而して神聖なるものが一層明らかに自からを現はせば霊と肉とは相互に遍通するのである。動物的人間は霊肉の矛盾を感じない。『精神的』の人のみ肉を圧迫して自己の感ずる二元より免かれんと欲求する。新道徳の目的はこの矛盾を除かんとする[#「この矛盾を除かんとする」に傍点]にある。恋愛に於てはこれが真実の恋愛によつてのみなされるのである。この意味に於ける結合の所有或は欠乏を通じてのみ各人は自己の恋愛の価値と正しきことゝを見ることが出来るのである。
 私は社会より全ての形式を剥奪せんとするものゝ如く云ふは誤れる非難である。『恋愛と結婚』を通読した人々にはこれはよく理解せられてゐることと思ふ。それは新しき形式を要求する人々に対して常に為さるゝの非難である。私の提出した新形式の心理的内容と律法的堅実を疑ふ人があるかも知れない。併しながら何人も私が何等の拘束なき自由を要求したものであると主張することは出来ない。私の云ふ束縛とは若樹を縛る麻縄の如きものであつて、かの将《まさ》に倒れんとする老樹を辛うじて支ふる鉄の箍《たが》の如きものではないのである。



底本:「定本 伊藤野枝全集 第四巻 翻訳」學藝書林
   2000(平成12)年12月15日初版発行
※ルビを新仮名遣いとする扱いは、底本通りにしました。
入力:門田裕志
校正:Juki
2008年9月25日作成
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