ニを適当に完成するには、女子は男子と同等なる権力を要求するのである。而して女子がこの権利を獲得するまでは『女性主義《フェミニズム》』は尚ほなすべき仕事を有してゐる。併しながら女子が選挙権――単にその狭き政治上の意味に於てのみならず、一般の選択権といふ意味に於て――を得るに準じて彼等はそれを広き人生の舞台に向つて使用する事を学ばなければならない。彼等は女子の力が『秤《はか》るべからざる』価値の創造せらるゝ領域にありて最大なるものであることを学ばなければならない。その価値はたとへ数字に表はさるること能はずとも人道《ヒューマニティー》を改善する上に最も功力多きものである。若し自からの小児が乳母部屋に於て鞭韃せられ或は相互に相打つが如きことあらば平和会議に関して喋々するも婦人にとつてそれが何の益に立つであらう。もし婦人にして哀れむべき独身の境遇より一個の男子を救ふこと能はず、而して男子の生活に調和ある結合を齎《もた》らすこと能はずとせば徒らに倫理会議を口にするもそれが何の益にたつであらう。女性主義はゲーテの二個の格言中に極めて適当なる評言を発見する。『霜を以て自からを暖めんが為め太陽より逃れんとするは愚なり。』『智慧の第一条件は何物をも見せかくることなく、全てのものとなるにあり』と彼は云つてゐる。
心霊の価値の生ずる処に太陽はその熱をふりそゝぎ、心霊の意とせざる功利の創造せらるゝ処を霜は支配してゐる。
心霊の価値は感情の世界に発見せられなければならない。亜米利加《アメリカ》に於ける近代の革新策は多くの婦人を迷路に導いたことは誠に悲しむべきことである。彼等はかの革新策なるものが恰かもかの羽根のみ華麗にして歌ふこと能はざる亜米利加の鳥の如きものであるといふことを洞察することが出来なかつたのである。亜米利加の精神は未だ一般に楽耳を欠いてゐる。それは人生の全音と半音とを識別することが出来ないのである。亜米利加に於ける数万の婦人が団体的事業にその家庭と小児の世話を任かせ自からは各自の職業或は商売に従事してゐるのは一見如何にも社会にとつて有益であるかの如く見ゆる。然し人生を向上せしむるは実は功利の如きものに非して完全なる人間である。故に行政及び社会事業を通じてなされたる全て外部の改善は畢竟何等の功果をも残さないのである。何故なれば男子も女子も真に有益なる事業とは道徳的価値を有する範
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