場合逆説的な論拠になるとも云えるんだ。そして、何処に隠れていたかと云う事は、あの当時の夢殿が、油火一つの神秘的な世界だったのだから、それは改めて問う迄もない話だろう。所で、浄善の昏倒と推摩居士の発作が適確なのを確かめると、犯人は四本の玉幡を合せて、繍仏の指に凸起《とっき》のある方を内側にして方形を作り、それを三階の突出床の下に吊して置いたのだ。そして、愈《いよいよ》画中の孔雀明王を推摩居士の面前に誘《おび》き寄せたのだが……、そうすると支倉君、あの神通自在な供奉鳥は、忽ちに階段を下り、夢中の推摩居士に飛び掛かったのだよ」
そう云ってから法水《のりみず》は、唖然とした検事を尻眼にかけて立ち上り、書棚から一冊の報告書めいた綴りを抜き出した。そして、それを卓上に置き、続けた。
「もとより画中の孔雀が抜け出すと云う道理はないけれども、それが孔雀明王の出現と云えるのには他に理由がある。と云うのは、推摩居士の異様な歩行が始まったからなんだ。君は、ヒステリー痲痺患者の手足に刺戟を与えると、様々不思議な動作を演ずると云う事実を知っているだろう。然しその前に、所謂体重負担性断端――それを詳しく云うと、
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