くて、寧ろ智凡尼が英仏海峡附近の地図と云った、下の血痕との間に挾まれている溝にあったのです。貴女が知らないと答えたのは、あのU字形の溝なんですよ。ねえ普光さん、聯想と云うものは、非常に正確な精神化学《メンタル・ケミストリー》なんですよ。あの二つの伝声管を繋いだとしたら、それがU字管になるでしょうからね。するとU字管には色々な現象が想像されますが、さしずめ、一本の伝声管の端に銛を作ったと仮定しましょう。そして、それに空気を激突させるような仕掛を側に置いたとしたら、そこでは下らない雑音に過ぎないものが、管の気柱を振動させて二階の孔からどう云う音響となって飛び出しますか――その事はとっくに御承知の事と思われます。いや、笙の蜃気楼を作った貴女の魔術を、私が此処でくどくど説明する必要はないのですよ。とうに貴女は、それを問わず語らずのうちに告白してしまっているのですからね」
法水論理と巧妙なカマに掛かって、普光尼は一溜りもなく、その場に崩れ落ちてしまうものと思われた。所が意外にも、彼女の態度が見る見る硬くなって行って、やがて厳粛な顔をして立ち上った。
「いいえ、どうあろうと一向に構いませんわ。仮
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