るのを見たのです。と云うのは、最初厨子扉に映った※[#「木+需」、第4水準2−15−67]子を見詰めて、それから網扉に嵌まっている縦桟の格障子を見たからなんです。つまり※[#「木+需」、第4水準2−15−67]子窓の残像が縦桟の間に挾まって――そうした時に網扉を開いたのですから、当然一つの実像と一つの残像とが交錯して、そこに所謂驚盤現像(縦穴の並んでいる円筒を廻転させると、内部の物体が動くように見える活動写真的現像)が起らねばなりません。然しその現象は、網扉が眼前から去ると同時に、当然止むだろうと思うでしょうが、事実は、その後も暫く続いて居りました。多分、視軸に影響して廻転が続くので、それにつれて、やはり以前通りに動いたのでしょう。すると、眼前の十一面千手観音にどう云う現象が起ったと思いますね。臂を上方に立てている肩口の七本と、下に向けている腰辺の四本が……、各々が一本の手になってしまって、その手を左右に振っているかのような錯視が現われたのです。つまり、残像の列と符合している縦の線が、目撃者に動いたように見えたからなんですが、同時にそれにつれて、全身の線や襞が、不気味な躍動を始めて来ま
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