積雲が、ひゅうひゅう上層風《プリマ》をはらみながら、この渓谷をとざしてくる。雨ちかし、温霧谷《キャム》はその名のとおり大釜がたぎるように、濃霧に充ち、一寸の展望もない。
「この氷河の氷には、石灰分が多い。だから、猛雨があれば氷塔に浸みこんで、あの邪魔ものを、ボロボロにしちまうと思うよ。つまり、氷の石灰分が水に溶けるんだから、あの頑固なやつが軽石みたいになっちまうんだ。で、それが流れるから、平らになる。そこを、僕らが渡ろうという魂胆《こんたん》だ」
 そういう、折竹の推測がついに適中した。すごい雨のあった翌朝、一掃された氷塔をみて、三人はわっと歓呼の声をあげたのだ。濃霧《ガス》の暗黒の底から盛りあがる氷の咆哮《ほうこう》を聴きながら、温霧谷《キャム》の化物氷河を渡ったのである。しかしそこで、空中索道をつくるのに一日ほど費やし、それまで黒い骨とばかりみえていた「大地軸孔」の口元へ、立ったのが翌朝のこと。
 いよいよ、此処――三人は感極まったような面持だ。のぞくと、まっ黒な中からひやりとした風がのぼってくる。地底の国、アジア、アフリカ両大陸にまたがる想像界の大盲谷が、いま三人によって白日下に
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