の混血児にある。それが、晦冥国の女王なんて神話めいたことで、俺を釣ろうなどとは、大それた奴だ。きっと、ソ連の連中のなかじゃ、いい姐御だろう――と思うと気も軽々となり、
「いつぞや、僕の『大地軸孔』ゆきにご勧告がありましたね」
「ええ、ぜひそうお願いしたいと、思うのです。覗き穴のしたにわずか固っている、未開の可哀想な連中です。別に、この世に引き出したところで、見世物にもなりません。お捨て置きになれば、有難く思いますわ」
「しかし、あなたはフランス語をお喋りになりますね。そこは大体、地上と交通のない地底の国のはず。その点がどうも解《げ》せませんよ」
 とうとう、ザチはそれには答えなかった。悲しそうな目をして、じっと折竹をみている。駄目っ、駄目っと……念を押すようなそれでもないような、なにか胸に迫った真実のものを現わして、
「でも、お目にかかれて嬉しいと思いますわ。人間って――十年、二十年、交際《つきあ》っていても何でもない方もありますし……たった一目でも、生涯忘れられない方もありますわ。お別れいたします」
 と立ちあがったが、またふり向いて、
「こんな齢になって泣くなんて、可笑しいですわね
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