明書、「大地軸孔《カラ・ジルナガン》」行きを断念するという意外な折竹の発表が、朝刊締切後の深更の各社をおどろかした。
――ドイツルフト・ハンザ航空会社の主唱になる「大地軸孔」探検に小生は不参加の意を表明す。なお、同探検隊が小生の攻撃計画を採用するも、それにはなんの異議なきものなり。鍵十字旗《ハーケン・クロイツ》の、魔境に翻えるを祈りて。
これには、各社ともアッと目を剥《む》いたのである。なんてこった、じぶんが計画をたて隊長にまでなりながら、まさに出発という間際にスイと身を退くなんて……これまで度胸六分の戦車的突進を誇りとした彼を思えば、ますます分らなくなってくる。きっと、これには事情があるのだろう。ただ心境の変化、電撃的翻意くらいで、そう易々《やすやす》と片付けられるものではあるまい。と、事の真相を測りかねた各社の猛者《もさ》連が、翌朝折竹の宿へ目白押しに押しかけてきた。
彼が泊まっている「マルバーン・ハウス」というのは、ロンドンの西郊チェルシー区にある。この区はロンドンの芸術家街《クワルチェ・ラタン》といわれ、都心を遠くはなれた川沿散歩道《チェイン・ウォーク》のしずけさ。が、い
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