t Mu:nzer〕《クルト・ミュンツァ》”と呟いている訳は※[#疑問符感嘆符、1−8−77] あの、未知国の所在を売るという匿名の手紙の主の、K・Mというのがクルト・ミュンツァの頭文字。
 事によったら、これが導きとなってあの手紙のわけも、また、それに関連しているらしいルチアノ一派の策動の意味も──すべてが明白になるのではないか。してみると、この奇獣|鯨狼《アー・ペラー》も全然無関係ではない。いや、無関係どころか極地に春がきて、ながい闇が破れるようにすべてを分らせる──と、折竹はそんなように考えてきた。
 金鉱、ダイヤモンド鉱それとも石油か※[#疑問符感嘆符、1−8−77] いま、ルチアノ一味が全能力をあげて、それに打衝《ぶつか》ろうという意気が仄《ほの》みえるだけに、……秘密の、深い深い底をのぞき知ろうとする、彼はいま完全に好奇心の俘虜。
「折竹さん、海獣《けもの》とばかり交際《つきあ》ってて、あたしを忘れちゃ駄目だよ。一度、ぜひ伺わせて貰うからね」
「来給えな」と言ったのも、上の空。おのぶの言葉も瞬後に忘れてしまったほど、心は、クルト・ミュンツァが住む高架線《エル・トラック》の下へ。
 その後、彼とケプナラがイースト・サイドへ出掛けていった。
 そこは、二十七か国語が話されるという、人種の坩堝《るつぼ》。極貧、小犯罪、失業者の巣。いかに、救世軍声を嗄《か》らせどイースト・リヴァの澄まぬかぎり、ここの|どん詰り《デッド・エンド》は救われそうもないのだ。
「ここが、二〇九番地だから、この奥だろう」
 と、皮屋と剃刀《かみそり》屋のあいだの階段をのぼり、突き当りのボロ蜂窩《アパート》へはいってゆく。
 廊下は、壁に漆喰《しっくい》が落ちて割板だけの隙から、糸のような灯が廊下にこぼれている。年中、高架線の轟音と栄養不足で痛められている、裸足《はだし》の子供たちがガヤつく左右の室々。やっと、さぐり当てたクルト・ミュンツァの部屋を、折竹がかるく|叩き《ノック》をした。
「入れ。誰だ、マッデンかい」
 あけると、意外な男二人にオヤッと目をみはる。どこか悪いらしく寝台にねているミュンツァは、三十|恰好《かっこう》の上品な面立ちの男だ。折竹が、来意を告げると踊りあがるような悦び。あのK・Mとは、やはりこのミュンツァ。
「ああ、来てくだすったですね。いろいろ、ご都合もあろうし、駈
前へ 次へ
全25ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング