「た。
艦側から、海中に飛び込む兵員、しだいに現われゆく赤い船腹、やがて、魚雷網の支柱にまで火が移って、まったく一団の火焔と化してしまったのである。
かくて、戦艦「レオナルド・ダ・ヴィンチ」は、タラント軍港の水面下に没し去っていったのであった。
「見ておくがいいよ。|モナ・リーザ嬢《フロイライン・モナ・リーザ》が、いまゲラゲラと狂《きちが》い笑いをしているんだ。ダ・ヴィンチ先生のせっかくの傑作も、ああもだらしなく、吹き出すようじゃおしまいだね」
余は、安全区域に出ると、さっそく勝報を送ったが、すぐ打ち返してきた返電を見ると、唖然とした。
――貴官は目下、海軍高等審判に附されつつあり。
かくて余は、七つの海を永遠に彷徨《さまよ》わねばならぬ身になった。
祖国よ! 法規とは何か。区々たる規律が、戦敗《せんぱい》崩壊後に、なにするものぞ。
読んでゆくうちに、法水の眼頭《めがしら》が、じっくと霑《うる》んでいった。しばらくは声もなくじっと見つめているのを、検事は醒ますように、がんと肩をたたいた。
「どうしたんだい、いやァに感激しているじゃないか。しかし、仏様のことだけは、忘
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