られてくる。そしていまにも、その悲愁な謎を解くものが訪れるのではないかと考えられた。
その四人は朝枝を加えて、やや金字塔《ピラミッド》に近い形を作っていた。
と云うのは、中央にいる諾威《ノルウェー》人の前砲手、ヨハン・アルムフェルト・ヴィデだけがずば抜けて高く、それから左右に、以前は一等運転士だった石割《いしわり》苗太郎《なえたろう》と朝枝、そして両端が、現在はウルリーケの夫――さきには室戸丸《むろとまる》の船長だった八住《やずみ》衡吉《こうきち》に、以前は事務長の犬射《いぬい》復六《またろく》となっているからだった。
そのヴィデは、はや四十を越えた男であるが、丈は六尺余りもあって、がっしりとした骨格を張り、顔も秀でた眼鼻立ちをしていた。亜麻色の髪は柔らかに渦巻いて、鼻は鷹の嘴《くちばし》のように美しいが、絶えず顔を伏目に横へ捻じ向けていた。その沈鬱な態度は、盲人としての理性というよりも、むしろ底知れない、こころもち暗さをおびた品位であろう。
ところが、ヴィデの頸《くび》から上には、生理的に消しがたい醜さが泛《うか》んでいた。頬には、刀傷や、異様な赤い筋などで、皺が無数にたたまれているばかりでなく、兎唇《みつくち》、瘰癧《るいれき》、その他いろいろ下等な潰瘍《かいよう》の跡が、頸《くび》から上をめまぐるしく埋めているのだった。
それらは、疾病《しっぺい》放縦などの覆い尽せない痕跡なのであろうが、一方彼が常に、砲手として船に乗るまでは数学者だった――などというところをみると、そのかずかずの醜さは、とうてい彼の品位が受け入れるものとは思われなかった。
むしろ、その奇異《ふしぎ》な対象から判断して、事実はその下に、美しい人知れない創《きず》があって、それを覆うている瘤《こぶ》というのが、あの忌わしい痕のように考えられもするので、もしそうだとすると、ヴィデには二つの影があらねばならなくなるのだった。
それから、犬射復六は小肥りに肥った小男で、年配はほぼヴィデと同じくらいであるが、一方彼は詩才に長《た》け、広く海洋の詩人として知られている。
柔和な双顎《ふたあご》の上は、何から何まで円みをおびていて、皮膚はテカテカ蝋色に光沢《つや》ばんでいる。また唇にはいつも微かな笑いが湛えられていて、全身になんともいえぬ高雅な感情が燃えているのだった。
それに反して石割苗
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