ノ出ると、たちまちその手が潜水操舵器を掴んで、「|鷹の城《ハビヒツブルグ》」は、けたたましく唸《うな》りながら迂回を始めたが、やがて防堤下の岩壁が、前方に透かし見えるところまで来ると、今度は舵《かじ》を操って、それと並行に走らせた。
すると、不思議な事には、少し行くうちに、艇がみるみる水面に浮び上がってゆくのだったが、まもなく硝子の壁に、碧《あお》い陽炎《かげろう》が揺らぎはじめた――艇長フォン・エッセンは、なぜ「|鷹の城《ハビヒツブルグ》」を水面に浮き上がらせたのであろうか。
ところが、艇を出ると、法水は、この事件が終った旨を一同に報せた。
「ところで、あの魔法のような隠身術《おんしんじゅつ》も、底を割れば、たかがこの白い帯一つにすぎなかったのですよ」
検事とウルリーケを伴って、艇内に入ると、法水は、潜水服が吊されている一画を示した。
いずれも、胴着とズボンの間が、前の方だけ少し離れていて、そこから白い、大|帯革《バンド》の裏が見えた。
「つまり艇長はいつも、この中に隠れていたのでしたが、その以前にこの帯なりの隠し彫りを、下腹一面に施したことを忘れてはならないのです。つまり、日頃は見えないのですが、酒を嚥《の》むとか湯に入るかして、全身が紅ばんでくると、それまで見えなかった白い隠し彫りが現われてくるのです。それに、この薄暗い一画では、皮膚の色がさだかではないのですから、永らく僕らは、この白い帯裏《ベルト》の符号にあざむかれてきました。そして、あの悪鬼は、人影がなくなるまでここに隠れていて誰もいなくなると、今度は、潜望鏡を利用して外に脱け出ていたのです。さあ、夫人《おくさん》、機関室の扉《ドア》を開いて……」
と云われて、胸をときめかしたウルリーケが、扉《ドア》を開いたとき、咄嗟の驚愕に彼女はふらふらと蹌《よろめ》いた。
そこには、梁骨に紐を吊して、ふんわりとした振子のようなものが、揺れていた。ああ、なんとこの事件の艇長フォン・エッセンはウルリーケの一人娘朝枝だったのである。
法水は、波打つウルリーケの肩に、やさしげな手を置いて、
「しかし、どうして僕が、朝枝を犯人と知ったでしょうか。それはほかならぬ、アマリリスの鉢だったのです。
だいたい、健全者の夢は妄想的であり、神経病者の夢は、反対に、健全な内容を持っていると云われるのですが、もし両者の醒と夢が
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