恋に向かって歩み、その方向にひたすら進むものです。正しかったり貞潔であったにしても、それがなんの役に立ちましょうぞ。そもじの手は、もう動きませぬか、この白い、美しい臥床《ふしど》を選んで、いまこそ、そもじと妾《わらわ》は(八字削除)、フローラ、私はこの手で、そもじの灯火《あかし》を消すまいと、腕を回しているなれど……」
けれども、フローラの浄《きよ》らげな顔は動かず、眼を閉じて、眠っているのか、それとも、永劫《えいごう》の休息に入ったのかわからなかった。紅琴の眼は炎のように燃え、止めどない欲情に駆られて、フローラの体を掻《か》い抱いた。
ぐるりの丘や岩は、不思議な樹木のごとく、咲き乱れた花のごとく、刻々と白く高くなっていく。
こうして、黄金郷《エルドラドー》の秘密も、悪霊ステツレルも、ラショワ島の殺人者も……、神秘と休息と眠りの中に、名状しがたい色調となり、溶け込んでいくのだった。
底本:「ひとりで夜読むな 新青年傑作選 怪奇編」角川ホラー文庫、角川書店
1977(昭和52)年10月15日初版発行
1980(昭和55)年10月25日6版発行
2001(平成13)年1月10日改版初版発行
初出:「新青年」
1935(昭和10)年10月号
入力:網迫、土屋隆
校正:ロクス・ソルス
2005年1月5日作成
青空文庫作成ファイル:
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