Aまず套靴《オヴァ・シューズ》の方に、易介を当ててみたのだが、どうだろうね。ねえ熊城君、たしかあの男は、拱廊《そでろうか》にあった具足の鞠沓《まりぐつ》を履いて、その上に、レヴェズの套靴《オヴァ・シューズ》を無理やり嵌《は》め込んだに違いないのだ」
「明察だ。いかにも、易介はダンネベルグ事件の共犯者なんだ。あの行為の目的は、云わずと知れた毒入り洋橙《オレンジ》の授受であったに相違ない。それを、あれほど明白な結合動作《コンビネーション》を――。今の今まで、君の紆余《うよ》曲折的な神経が妨げていたんだぜ」と熊城は傲然《ごうぜん》と云い放って、自説と法水の推定が、ついに一致したのをほくそ笑むのだった。しかし、法水は弾《はじ》き返すように嗤《わら》った。
「冗談じゃない。どうして、あのファウスト博士に、そんな小悪魔《ポルターガイスト》が必要なもんか。やはり、悪鬼の陰険な戦術なんだよ。で、仮令《たとえ》ば家族の中に、一人冷酷無残な人物があったとしよう。そして、その一人が黒死館中の忌怖《きふ》の的であったばかりでなく、事実においても、易介を殺したのだと仮定しよう。ところが易介は、あの夜ダンネベルグ
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