ェ猶太《ユダヤ》人であることは、すでに彼が観破したところであるとは云え、その破られた記録の内容というのに、なんとなく心を惹《ひ》くものがあったのは、当然であろう。その時一人の私服が入って来て、津多子の夫――押鐘医学博士が、来邸したという旨を告げた。押鐘博士には、かねて福岡に旅行中のところを、遺言書を開封させるため、唐突な召喚を命じたというほどだったので、ここでひとまず、伸子の訊問を中断しなければならなかった。そこで法水は、ダンネベルグ事件を後廻しにして、さっそく今日の動静について知ろうとした。
「ところで、既往の問題はのちほど改めて伺うとして……。今日の出来事当時に、貴女《あなた》は何故自分の不在証明《アリバイ》を立てることが出来なかったのです」
「何故って、それが二回続きの不運なんですわ」と伸子はちょっと愚痴を洩らして、悲しそうに云った。
「だって私は、あの当時|樹皮亭《ボルケン・ハウス》([#ここから割り注]本館の左端近くにあり[#ここで割り注終わり])の中にいたんですもの。あそこは美男桂《びなんかつら》の袖垣に囲まれていてどこからも見えはいたしませんわ。それに、クリヴォフ様が吊さ
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