ワ月の初めでしたが、その夜は、ハイドンのト短調|四重奏《クワルテット》曲の練習を、礼拝堂でやることになりました。ところが、曲が進行しているうちに、突然グレーテさんが、何か小声で叫んだかと思うと、右手の弓《キュー》が床の上に落ち、左手もしだいにダラリと垂れていって、開いてある扉《ドア》の方を凝然《じっ》と瞶《みつ》めているのでした。勿論、儂《わし》ども三人は、それを知って演奏を中止いたしました。すると、グレーテさんは、左手に持った提琴《ヴァイオリン》を逆さに扉《ドア》の方へ突き付けて、津多子さん、そこにいたのは誰です?――と叫んだのです。案の定|扉《ドア》の外からは、津多子さんの姿が現われましたけども、あの方はいっこう解せぬような面持で、いいえ誰もいない――と云うのでした。ところが、それを聴くと、グレーテさんは何と云ったことでしょうか。声を荒らげて、儂《わし》どもの血が一時に凍りつくような言葉を叫ばれたのです。確かそこには算哲様が[#「確かそこには算哲様が」に傍点]――と」と云った時に、総身を恐怖のために竦《すく》めて、セレナ夫人はレヴェズの二の腕をギュッと掴んだ。その肩口を、レヴェズは
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