ネ[#「悲痛な」は底本では「非痛な」]語気を吐いた。
「ああ、僕はシュライエルマッヘルじゃないがね。熱を傾けて苦を求めたよ、また、血みどろの身振り狂言なんだ。それも、人もあろうに、クリヴォフが狙撃されたんだよ[#「クリヴォフが狙撃されたんだよ」に傍点]」と陽差が翳《かげ》って薄暗くなった大火之図の上に、法水はいつまでも空洞《うつろ》な視線を注いでいた。あたかもその様子は、彼が築き上げた壮大な知識の塔が、脆くも崩壊しつつある惨状を眺めているかのようであった。法水の歴史的退軍――これこそ、捜査史上空前ともいう大壮観《スペクタクル》ではないか。
二、宙に浮んで……殺さるべし
法水がクリヴォフ夫人に猶太人虐殺《ポグロム》を試みて、しきりと十二宮《ゾーディアック》秘密記法の解読をしている頃だった。一方私服の楯で囲まれている黒死館では、その隙をどう潜ったものか、世にもまたとない幻術的な惨劇が起ったのである。それが二時四十分の出来事で、当の被害者クリヴォフ夫人は、ちょうど前庭に面した本館の中央――すなわち尖塔のまっすぐ下に当る二階の武具室の中で、折からの午後の陽差を満身に浴びながら、窓
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