ウす》りながら、歩み寄って云った。
「素敵だ法水君、君はトムセンどころか、アントアンヌ・ロシニョール([#ここから割り注]史上最大の暗号解読家、ルイ十三十四世に仕え、ことに僧正リシュリュウに寵愛せらる[#ここで割り注終わり])だよ」
「ああ、それは風精《ジルフェ》の洒落《しゃれ》じゃないか」法水は暗澹《あんたん》とした顔色になって嘆息した。「あの男は詩人のボア・ロベールから、暗号でもない『ファウスト』の文章で揶揄《からか》われたのだからね」
× × ×
こうして事件の第一日は、矛盾撞着を山のごとくに積んだままで終ってしまった。が、はたして翌朝になると、あらゆる新聞はこの事件の報道で、でかでか一面を飾り立てて、日本空前の神秘的殺人事件と、すこぶる煽情《せんじょう》的な筆法で書き立てるのだった。ことに、事件の開始早々にもかかわらず、もう、愚にもつかない実際家《じっさいか》出の探偵小説家を掴まえてきて、それにくだくだしい推理談的な感想を述べさせているところなどを見ると、降矢木一族の底知れない神秘と関聯させて、この事件をジャーナリスチックにも、煽《あ
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