いのです。ところが田郷さん、その婦人は、まだこの館の中に潜んでいるのですよ。ああいったい、それは誰なんでしょうかね」と再三真斎の自供を促しても、相手は依然として無言である。法水の声に挑《いど》むような熱情がこもってきた。
「それから僕の脳裡で、その一つの心像が、しだいに大きな逆説《パラドックス》となって育っていったのですが、しかし、先刻《さっき》貴方の口から、ようやくその真相が吐かれました。そして、僕の算定が終ったのです」
「何と云われる。儂《わし》の口からとは?」真斎は驚き呆れるよりも、瞬間変転した相手の口吻《こうふん》に、嘲弄されたような憤りを現わした。「それが、貴方にあるたった一つの障害なのじゃ。歪んだ空想のために、常軌を逸しとるのです。儂《わし》は虚妄《うそ》の烽火《のろし》には驚かんて」
「ハハハハ、虚妄《うそ》の烽火《のろし》ですか」法水はとたんに爆笑を上げたが、静かな洗煉された調子で云った。
「いや、|打たれし牝鹿は泣きて行け《ホワイ・レット・ゼ・ストリクン・ディーア・ゴー・ウイープ》、|無情の牡鹿は戯るる《ゼ・ハート・アンギャラント・プレイ》――の方でしょうよ。しかし、
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