してしまった一人があったのですよ。僕は、最初この館に一歩踏み入れたとき、すでにある一つの前兆とでも云いたいものを感じました。それを、召使《バトラー》の行為から観取することが出来たのでしたよ」
「すると、僕が訊ねた……」検事は異様に亢奮《こうふん》して叫んだ。そして、自分の疑念が氷解してゆく機に、達したのを悟ったのであった。法水は、検事に微笑で答えてから続けた。
「つまり、この神経黙劇にとると、最初|召使《バトラー》に導かれて大階段を上って行った時が、そもそもの開緒《アインライツング》なのでした。その折、喧《けたた》ましい警察自動車の機関《エンジン》の響がしていたのですが、その召使《バトラー》は、僕の靴が偶然|軋《きし》って微かな音を立てると、何故か先に歩んでいるにもかかわらず、竦《すく》んだような形で、身体を横に避けるのです。僕はそれを悟ると、思わず、神経に衝《つ》き上げてくるものがありました。ですから、階段を上り切るまでの間、試みに再三同じ動作を演じてみたのですが、そのつど、召使《バトラー》も同様のものを繰り返してゆくのです。明らかに、この無言の現実は、何事かを語ろうとしています。そ
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