ドア》が外側から引かれた。そして、二人の召使《バトラー》が閾《しきい》の両側に立つと見る間に、その間から、オリガ・クリヴォフ夫人の半身が、傲岸《ごうがん》な威厳に充ちた態度で現われた。彼女は、貂《てん》で高い襟のついた剣術着《フェンシング・ケミセット》のような黄色い短衣《ジャケット》の上に、天鵞絨《びろうど》の袖無外套《クローク》を羽織っていて、右手に盲目のオリオンとオリヴァレス伯([#ここから割り注]一五八七―一六四五。西班牙(スペイン)フィリップ四世朝の宰相[#ここで割り注終わり])の定紋が冠彫《かしらぼり》にされている、豪奢な講典杖《キャノニスチック・ケーン》をついていた。その黒と黄との対照が、彼女の赤毛に強烈な色感を与えて、全身が、焔《ほのお》のような激情的なものに包まれているかの感じがするのだった。頭髪を無雑作に掻き上げて、耳朶《みみたぶ》が頭部と四十五度以上も離れていて、その上端が、まるで峻烈な性格そのもののように尖っている。やや生え際の抜け上った額は眉弓が高く、灰色の眼が異様な底光りを湛えていて、眼底の神経が露出したかと思われるような鋭い凝視だった。そして、顴骨《かんこつ
前へ 次へ
全700ページ中251ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング