トリア・ダニカ》」等に眼を移した時だった。鎮子がようやく、鎮魂楽《レキエム》の原譜を携えて現われた。その譜本は、焦茶色に変色していて、かえって女王《クイン》アンの透し刷が浮いて見え、歌詞はほとんど判らなかった。法水は手に取ると、さっそく最終の頁に眼を落したが、
「ハハア、古式の声音符記号で書いてあるな」と呟《つぶや》いただけで、無雑作に卓子《テーブル》の上に投げ出した。そして、鎮子に云った。「ところで久我さん、貴女は、この部分に何故弱音器符号を付けたものか、御承知ですか?」
「存じませんとも」鎮子は皮肉に笑った。「Con《コン》 sordino《ソルディノ》 には、弱音器を附けよ――以外の意味があるのでしょうか。それとも、Hom《ホモ》 Fuge《フゲ》(人の子よ逃れ去れ)とでも」
 法水は、鎮子の辛辣《しんらつ》な嘲侮《ちょうぶ》にもたじろがず、かえって声を励ませて云った。
「いや、かえって|此の人を見よ《エッケ・ホモ》――の方でしょうよ。これは、ワグネルの『パルシファル』を見よ――と云っているのですからね」
「パルシファル※[#感嘆符疑問符、1−8−78]」鎮子は法水の奇言に面喰《
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