のだ。勿論探偵作家にありがちな、得手勝手きわまる空想には違いない。けれども降矢木の三事件には、少なくとも聯鎖を暗示している。それに、小さな窓を切り拓いてくれたことだけは確かなんだよ。しかし遺伝学というのみの狭い領域だけじゃない。あの磅※[#「石+(蒲/寸)」、第3水準1−89−18]《ほうはく》としたものの中には、必ず想像もつかぬ怖ろしいものがあるに違いないのだ」
「フム、相続者が殺されたというのなら、話になるがね。しかし、ダンネベルグじゃ……」といったん検事は小首を傾《かし》げたけれども、「ところで、今の調書にある人形と云うのは」と問い返した。
「それが、テレーズ夫人の記憶像《メモリー》さ。博士がコペツキイ一家(ボヘミアの名|操人形《マリオネット》工)に作らせたとかいう等身の自働人形だそうだ。しかし、何より不可解なのは、四重奏団《カルテット》の四人なんだよ。算哲博士が乳呑児《ちのみご》のうちに海外から連れて来て、四十余年の間館から外の空気を、一度も吸わせたことがないと云うのだからね」
「ウン、少数の批評家だけが、年一回の演奏会で顔を見ると云うじゃないか」
「そうなんだ。きっと薄気味悪
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