に病理的な潜在物があって、それが、発生から生命の終焉《しゅうえん》に至るまで、生育もしなければ減衰もせず、常に不変な形を保っているものと云えば……」
「と云うと」
「それが特異体質なんです」と法水は昂然と云い放った。「恐らくその中には、心筋質肥大のようなものや、あるいは、硬脳膜矢状縫合癒合がないとも限りません。けれども、それが対称的に抽象出来るというのは、つまり人体生理の中にも、自然界の法則が循環しているからなんです。現に体質液《ハーネマン》学派は、生理現象を熱力学の範囲に導入しようとしています。ですから、無機物にすぎない算哲博士に不思議な力を与えたり、人形に遠感的《テレパシック》な性能を想像させるようなものは、つまるところ、犯人の狡猾《こうかつ》な擾乱策《じょうらんさく》にすぎんのですよ。たぶんこの図の死者の船などにも、時間の進行という以外の意味はないでしょう」
 特異体質――。論争の綺《きら》びやかな火華にばかり魅せられていて、その蔭に、こうした陰惨な色の燧石《ひうちいし》があろうなどとは、事実夢にも思い及ばぬことだった熊城は神経的に掌《てのひら》の汗を拭きながら、
「なるほど、それなればこそだ――。家族以外にも易介を加えているのは」
「そうなんだ熊城君」と法水は満足気に頷《うなず》いて、「だから、謎は図形の本質にはなくて、むしろ、作画者の意志の方にある。しかし、どう見てもこの医学の幻想《ファンタジイ》は、片々たる良心的な警告文じゃあるまい」
「だが、すこぶる飄逸《ユーモラス》な形じゃないか」と検事は異議を唱えて、「それで露骨な暗示もすっかりおどけてしまってるぜ。犯罪を醸成するような空気は、微塵《みじん》もないと思うよ」と抗弁したが、法水は几帳面《きちょうめん》に自分の説を述べた。
「なるほど、飄逸《ユーモア》や戯喩《ジョーク》は、一種の生理的|洗滌《せんでき》には違いないがね。しかし、感情の捌《は》け口のない人間にとると、それがまたとない危険なものになってしまうんだ。だいたい、一つの世界一つの観念――しかない人間というものは、興味を与えられると、それに向って偏執的に傾倒してしまって、ひたすら逆の形で感応を求めようとする。その倒錯心理だが――それにもしこの図の本質が映ったとしたら、それが最後となって、観察はたちどころに捻《ねじ》れてしまう。そして、様式から個人の
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