サうして他殺から自殺に移されるということになると、そこに、どんな光によっても見ることの出来ない、伸子の告白文が現われてくるのだ。それは気紛《きまぐ》れな妖精めいた、豊麗《ほうれい》な逸楽的な、しかも、ある驚くべき霊智を持った人間以外は、とうていその不思議な感性に触れることが出来ないのだ。伸子は、あの陳腐《ちんぷ》きわまる手法に、一つの新しい生命を吹き込んだ……」
「なに、告白文※[#感嘆符疑問符、1−8−78]」と検事は、脳天まで痺《しび》れきったような顔をして、莨《たばこ》を口から放し、ぼんやりと法水の顔を見詰めている。
「うん、焔の弁舌だよ。しかも、その焔はけっして見ることは出来ないのだ。しかも、ファウスト博士の最後の儀礼《パンチリオ》で、それは一種の秘密表示《サイファリング・エキスプレッション》なんだ。ねえ支倉君、例えば、髪・耳・唇・耳・鼻――と順々に押えてゆくと、それが Hair《ヘーア》. Ear《イーア》. Lips《リップス》. Ear《イーア》. Nose《ノーズ》 で、結局 Helen《ヘレン》 となる――そういう、秘密表示《サイファリング・エキスプレッション》の一種を、伸子は、他殺から自殺に移ってゆく転機の中に、秘めておいたのだ。ところで、その最初は、屍体で描いたKの文字だが、それは伸子が自企的に起した、比斯呈利《ヒステリー》性痳痺[#「痳痺」はママ]の産物だったのだよ。その幾多の実例が、グーリュとブローの『人格の変換』の中にも記されているとおりで、ある種の比斯呈利《ヒステリー》病者になると、鋼鉄を身体に当てて、その反対側に痳痺[#「痳痺」はママ]を起すことが出来るのだ。つまり、左手を高く挙げて、一方の扉《ドア》の角に寄り掛っていた所へ、右頬へ拳銃を当てたのだから、当然左半身に強直が起るだろう。そして、そのまま発射とともに、床の上に倒れたので、垂直をなしている左半身が、例の薄気味悪いKの字を描かせてしまったのだ。しかし、勿論それは、|地精よいそしめ《コボルト・ジッヒ・ミューヘン》――の表象《シムボル》ではない。その二つの扉《ドア》を結んで、竜舌蘭《リネゾルム・オルキデエ》の繊維が作った――その半円というのは、どう見てもU字形じゃないか。それから、扉《ドア》に押された拳銃が動いていった線が、あろうことかSの字を描いているんだ。ああ、地精《コボルト》
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