セ葉を截ち切って、法水は鋭く旗太郎を見据えた。「しかし、この襟布《カラー》には、勿論誰の顔も現われてはいません。けれども、いずれこの事件の恐竜《ドラゴン》は、鎖の輪から爪を引き抜くことが、できなくなってしまうでしょう」
 汗まみれになった旗太郎には、このわずかな間に、胆汁が全身に溢《あふ》れ出たのではないかと思われた。すでに、怒号する気力も尽き果てて、ぼんやりあらぬ方を瞶《みつ》めている。が、やがて、フラフラ揺れている身体が棒のように硬くなったかと思うと、喪心した旗太郎は、顔を水平に打衝《うちつ》けて卓上に倒れた。それを法水が室外に連れ去らせると、セレナ夫人も軽く目礼して、その後に続いた。そうして、伸子一人が残された室内には、しばらく弛《ゆる》みきった、気懶《けだる》い沈黙が漂っていた――ああ、あの異常な早熟児が犯人だったとは。そのうち、歩き廻っていた法水が座に着くと、組んだままの腕をズシンと卓上に置き、意味ありげな言葉を伸子に投げた。
「ところで、あの黄から紅に[#「黄から紅に」に傍点]――ですか、僕はあくまでその真実を知りたいのですよ」
 すると、そのとたん彼女の顔が神経的に痙攣《けいれん》して、恐らく侮蔑と屈辱を覚えたとしか思われぬような、潔癖さが口をついて出た。
「それでは、私に聯想語をお求めになりますの。黄から紅《くれない》に――そうすると、それが黄橙色《オレンジ》になるではございませんか。黄橙色《オレンジ》――ああ、あのブラッド洋橙《オレンジ》のことを仰言《おっしゃ》るのでしょう。それで、きっと貴方は、私が嚥《の》んだ檸檬水《レモナーデ》の麦藁《ストロー》から、石鹸《シャボン》玉が飛び出したとでも……。いいえ私は、麦藁《ストロー》を束にして吸うのが習慣なのでございますわ。でもそうなったら、その束が一度に弦《つる》へは、番《つが》らないではございませんか」と伸子の皮肉が、猛烈な勢いで倍加されていった。「それから、あのダン――丁抹国旗《ダーネブローグ》が悲しい半旗となったということが、あのダンネベルグが私に何の関係がございますの。そして、青酸加里がいったいどんな……」
「いや、けっしてそんな……。むしろその事は、僕が津多子夫人に対して云うべきでしょう」と法水は微かに紅を泛《うか》べたが、静かに云った。
「実は、その黄から紅[#「黄から紅」に傍点]に――と云う
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