ニ驚くべき言葉を放って、その大見得が、一座を昂奮の絶頂にせり上げてしまった。
「実は、先刻《さっき》神意審問会の情景を再現してみたのですが、その場ではしなく、ダンネベルグ夫人が、驚くべき第二視力者《セカンド・サイター》であり、彼女に比斯呈利《ヒステリー》性幻視力が具わっていたのを知ることが出来ました。そうなると、当然発作が起った場合、あの方の痳痺[#「痳痺」はママ]した方の手には、自働手記([#ここから割り注]心理学者ジャネーの実験に端を発したもので、知らぬ間に筆を持たせた者の痺れた手を、気付かぬように握って、両三回文字を書かせると、その握った手を離した後でも、その通りの文字を自分の筆跡でしたためる――と云う、一種の変態心理現象。[#ここで割り注終わり])が可能になるではありませんか。いや、伸子さんの室《へや》の扉《ドア》際にあった、鉤裂《かぎざ》きの跡を見ても、夫人の右手が、あの当時痳痺[#「痳痺」はママ]していたことが判るんですよ。しかし、あの場合は、それがもう一段|蜻蛉《とんぼ》返りを打って、さらに異様な矛盾を起してしまったのでした。と云うのは、利手《ききて》の異なる方の手で、刺戟を与えた場合には、時折要求した文字ではなく、それに類似したものを書くということなんです。勿論あの夜は、伸子さんが花瓶を倒し、それと入れ代りにダンネベルグ夫人が入って来て、しかも激奮に燃えた夫人は、寝室の帷幕《カーテン》の間から、右肩のみを現わしていました。ですから、時やよしと、貴方は自働手記を試みたのでしたね。しかし、結果において夫人が認《したた》めたものは、貴方が要求したそれとは異なっていたのです」と卓上の紙片に、法水は次の二字を認《したた》め、とくにその中央の三字を円で囲んだ。
[#天から2字下げ]Th 〔e're`〕[#「〔e're`〕」は破線の罫囲み] se S ere[#「ere」は破線の罫囲み] na
とたんに一同の口から、合したような呻《うめ》きの声が洩れた。ことにセレナ夫人は、憤ると云うよりも、むしろあまりに意外な事実なので、ぼんやり旗太郎を瞶《みつ》めたまま自失してしまった。旗太郎はタラタラと膏汗《あぶらあせ》を流し、全身を鞭索《むちなわ》のようにくねらせて、激怒が声を波打たせていった。
「法水さん、貴方《ヴォルゲボーレン》――いや閣下《ホウホヴォルゲボーレン》!
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