L子がグレートヘンの運命に陥るのは判りきった話なんだよ。必ず何かの形で、あの悪鬼の耳が陰険な制裁方法を採らずにおくもんか」
「まず、それはいいとしてだ……。ところで、くどいようだけど、君がいま再現した神意審問会の光景だがね」とその声に法水が見上げると、検事の顔に疑い深そうな皺《しわ》が動いていた。「君は、ダンネベルグ夫人を第二視力者《セカンド・サイター》だと云って、しかも驚くべきことには、犯人がその幻覚を予期していたと結論している。けれども、そういうような、精神の超形而上的な型式が――だ。仮りにもし、軽々と予測され得るものだと云うのなら、君の論旨はとうてい曖昧以外にはないな。けっして深奥だとは云えない」
 法水はちょっと身振をして皮肉な嘆息をしたが、検事をまじまじと見詰めはじめて、「どうして、僕はヒルシュじゃあるまいし……。ダンネベルグ夫人をそれほど神秘的な英雄めいた――例えばスウェーデンボルグやオルレアンの少女《おとめ》みたいな、慢性幻覚性偏執症《パラノイア・ハルツィナトリア・クローニカ》だと云うわけじゃないのだよ。ただ、夫人のある機能が過度に発達しているので、時偶《ときたま》そういう特性が、有機的な刺戟に遇うと、感覚の上に技巧的な抽象が作られてしまう。つまり、漠然と分離散在しているものを、一つの現実として把握してしまうのだ。それに支倉君、フロイドは幻覚というものに、抑圧されたる願望の象徴的描写――という仮説を立てている。勿論夫人の場合では、それが算哲の禁断に対する恐怖――つまり云うと、レヴェズとの冒してはならぬ恋愛関係に起源を発していたのだ。それだから、犯人が夫人の幻覚を予期し得る条件としては、当然その間の経緯《いきさつ》を熟知していなければならない。また、ひいてはそれが一案を編み出させて、屍体蝋燭に水晶体凝視《クリスタル・ゲージング》を起すような、微妙な詭計を施した。それで、夫人を軽い自己催眠に誘ったのだったよ。ところが支倉君、その潜勢状態という観念が、僕に栄光を与えてくれた……」
 そう鋭く言葉を截ち切って、それから黙々と考えはじめたが、そのうち幾つかの[#「幾つかの」は底本では「幾つかのの」]莨《たばこ》を換える間に、法水は一つの観念を捉え得たらしかった。彼は、旗太郎・セレナ夫人・伸子の三人を至急|喚《よ》ぶように命じてから、再び礼拝堂に降りて行った。人気
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