u())」は太字]の形になるじゃないか。また、次に前のあの覆《カヴァ》を前踵部《つまさき》で踏むと、今度はそこの形が馬蹄形をしているので、中央より両端に近い方の水が強く飛び出して、それが下向き括弧(()[#「(()」は太字]の形になってしまうのだ。そして、その上下二様の括弧形をした水の跡を、左右|交互《かわるがわる》に案配していったのだよ。つまり犯人は、あらかじめ常人の三倍もある、人形の足型を計っておいた。そうしてから、歩幅をそれに符合させていったので、当然その二つの括弧に挾まれた中間が、人形の足型を髣髴とする形に変ってしまったのだ。したがって、そのスリッパの全長が、ヨチヨチ歩く人形の歩幅に等しくなって、そこで、陽画と陰画のすべてが逆転してしまったという訳なんだよ」
こうして、奇矯を絶した技巧が明らかにされて、人形の姿が消えてしまうと、当然屍光と創紋――といずれか二つのうちに、犯人がこの室《へや》に闖入《ちんにゅう》した目的があるのではないかと思われてきた。すでに、十一時三十分――。しかし、夜中になんとかして、解決まで押し切ろうとする法水には、いっこうに引き上げるような気配もなかった。そのうち検事が、嘆息ともつかぬような声を出して云った。
「ねえ法水君、この事件の、すべては、ファウストの呪文を基準にした、同意語《シノニム》の連続じゃないか。火と火、水と水、風と風……。だがしかしだ、あの乾板だけは、その取り合わせの意味がどうしても嚥《の》み込めんのだがね」
「なるほど、同意語《シノニム》※[#感嘆符疑問符、1−8−78] そうすると君は、この悲劇を思惑《おもわく》に結び付けようとするのかね」と法水はやや皮肉を交えて呟《つぶや》いたが、いきなり、いきなり鋭くその言葉を中途で截《た》ち切って、「あッ、そうだ支倉君、同意語《シノニム》――乾板。ああなんだか僕に、あの創紋の生因が判ってくるような気がしてきたよ」と不意に飛び上って叫んだが、そのまま風のように室を出て行ってしまった。しかし、間もなく幾分上気したような顔で、戻って来た彼を見ると、その手に、前日開封された遺言書が握られていた。そして、上段の左右に二つ並んでいる、紋章の一つを、創紋の写真に合わせて電燈で透かし見ると、そのとたんに、思わず二人の口から呻《うめ》きの声が洩れた。実に、その二つが、寸分の狂いもなく符合したか
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