ヘ貴女《あなた》の所へ、これを最後と思って来たのですよ。ところで、八木沢さん……」と――八木沢という姓を法水が口にすると、それと同時に、鎮子の全身に名状すべからざる動揺が起った。法水は追及した。「たしか貴女のお父上八木沢医学博士は、明治二十一年に、頭蓋鱗様部及び顳※[#「需+頁」、第3水準1−94−6]窩《せつじゅか》畸形者の犯罪素質遺伝説を唱えましたね。すると、それに、故人の算哲博士が駁論を挙げたでしょう。ところが、不審なことには、その論争が一年も続いて、まさしく高潮に達したと思われた矢先に、まるでそれが、黙契でも成り立ったかのように消え失せてしまいましたね。そこで、試しに僕は、過去黒死館に起った出来事を、年代順に排列して見ました。そうすると、次の明治二十三年には、あの四人の嬰児《えいじ》が、はるばる海を渡って来たではありませんか。ねえ八木沢さん、たぶんその間の推移に、貴女がこの館にお出でになった理由があると思うのですが」
「もう、何もかも申し上げましょう」と鎮子は沈鬱な眼を上げた。心の動揺がすっかり収まったと見えて、いったんは見分けもつかぬ深みへ、落ち込んでしまった顔の凹凸が、再び恐ろしい鋭さでもって影を擡《もた》げてきた。「私の父と算哲様があの論争を中止いたしましたのは、つまりその結論が、人間を栽培する実験遺伝学という極論に行き詰ってしまったからでございます。そう申し上げればあの四人が、たかが実験用の小動物にすぎないということはお判りでしょう。そこで、四人の真実の身分を申しますと、それぞれに紐育《ニューヨク》エルマイラ監獄で刑死を遂げた、猶太人《ジュウ》、伊太利人《ディエゴ》などの移住民《エミグラント》を父にしているのでございます。つまり、刑死体を解剖して、その頭蓋形体を具えた者がおりました際には、その都度その刑死人の子を、典獄ブロックウェーを通じて手に入れたのでした。そして、ついにその数が、国籍を異にするあの四人になって……ですから、『ハートフォード福音伝道者《エヴァンジェリスト》』誌の記事も、また、大使館公録のものも、みんな算哲様が、金に飽《あ》かした上での御処置だったのでございます」
「そうすると、この館にあの四人を入籍させて、動産の配分に紛糾を起させたというのも、つまりが、結論を見出さんがための筋書だったのですね」
「さようでございます。あの方の御父上
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