ェ現われるのだ。のみならず、それが弛《ゆる》んだ弾条《スプリング》のように不規則な弾縮をするから、そのつどに、加わってくる力が異なるという訳だろう。したがって、どの靴跡にも、一々わずかながらも差異が現われてくるのだ。すると、右足に左靴、左足に右靴を履くことになるから、歩線の往路が復路となり、復路が往路となって、すべてが逆転してしまうのだよ。その証拠と云うのは、乾板のある場所で廻転した際と、枯芝《かれしば》を跨《また》ぎ越した時と――その二つの場合に、利足《ききあし》がどっちの足か吟味してみるんだ。そうしてみたら、この差数が明確に算出されてくるじゃないか。で、そうなると支倉《はぜくら》君、どうしてもクリヴォフ夫人が、この詭計《トリック》を使わねばならなかった――という意味が明瞭《はっきり》するだろう。それは単に、あの偽装足跡を残すばかりではなかったのだ。なにより、最も弱点であるところの踵《かかと》を保護して、自分の顔を足跡から消してしまうにあったのだよ。そして、その行動の秘密と云うのが、あの乾板の破片にあった――と僕は結論したいのだ」
熊城は莨《たばこ》を口から放して、驚いたように法水の顔を瞶《みつ》めていた。が、やがて軽い吐息をついて、「なるほど……。しかし、ファウスト博士の本体は、武具室のクリヴォフ以外にはないはずだぜ。もし、それを証明出来ないのだったら、いっそのこと、君の嬉劇《シュポルト》的な散策は、やめにしてくれ給え」
それを聴くと、法水は押収してきた火術弩《かじゅつど》を取り上げて、その本弭《もとはじ》([#ここから割り注]弓の末端[#ここで割り注終わり])の部分を強く卓上に叩き付けた。すると意外にも、その弦《つる》の中から、白い粉末がこぼれ出たのであった。法水は、唖然となった二人を尻眼に語りはじめた。
「やはり、犯人は僕等を欺かなかったのだ。この燃えたラミイの粉末が、とりもなおさず、あの、|火精よ燃えたけれ《ザラマンダー・ゾル・グルーエン》――なんだよ。ラミイ――それをトリウムとセリウムの溶液に浸せば、燈火|瓦斯《ガス》のマントル材料になるし、その繊維は強靱《きょうじん》な代りに、些細《ささい》な熱にも変化しやすいのだ。実は、その繊維の撚《よ》ったものを、二本|甘瓢《かんぴょう》形※[#「∪/∩」(fig1317_48.png)」、382−5]に組んで
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