ろ呆れたように叫んだ。
「テレーズ! これは自働人形じゃないか」
「そうなんだよ。これにあの創紋を結びつけたなら、よもや幻覚とは云われんだろう」と熊城も低く声を慄《ふる》わせた。「実は、寝台の下に落ちていたんだが、それをこのメモと引合わせてみて、僕は全身が慄毛《そうげ》立った気がした。犯人はまさしく人形を使ったに違いないのだ」
法水は相変らず衝動的な冷笑主義《シニシズム》を発揮して、
「なるほど、土偶人形に悪魔学《デモノロジイ》か――犯人は、人類の潜在批判を狙《ねら》っているんだ。だが、珍しく古風な書体だな。まるで、半大字形《アイリッシュ》か波斯文字《ネスキー》みたいだ。でも君は、これが被害者の自署だという証明を得ているのかい?」
「無論だとも」熊城は肩を揺ぶって、「実は、君達が来た時にいたあの紙谷《かみたに》伸子という婦人が、僕にとると最後の鑑定者だったのだ。で、ダンネベルグ夫人の癖と云うのはこうなんだ。鉛筆の中ほどを、小指と薬指との間に挾んで、それを斜めにしたのを、拇指《おやゆび》と人差指とで摘《はさ》んで書くそうだがね。そういった訳で、夫人の筆蹟はちょっと真似られんそうだよ。それに、この擦《かす》れ具合が、鉛筆の折れた尖とピッタリ符合している」
検事はブルッと胴慄いして、
「怖ろしい死者の曝露《ばくろ》じゃないか。それでも法水君、君は?」
「ウム、どうしても人形と創紋を不可分に考えなけりゃならんのかな」と法水も浮かぬ顔で呟《つぶや》いた。
「この室《へや》がどうやら密室くさいので、出来ることなら幻覚と云いたいところさ。けれども、現実の前には、段々とその方へ引かれて行ってしまうよ。いやかえって人形を調べてみたら、創紋の謎を解くものが、その機械装置からでも掴めるかもしれない。何にしても、こう立て続けに、真暗な中で異妖な鬼火ばかり見せられているのだからね。光なら、どんな微かなものでも欲しい矢先じゃないか。とにかく、家族の訊問は後にして、とりあえず人形を調べることにしよう」
それから人形のある室《へや》へ行くことになって、私服に鍵を取りにやると、間もなくその刑事は昂奮して戻って来た。
「鍵が紛失しているそうです、それに薬物室のも」
「やむを得なけりゃ叩き破るまでのことだ」と法水は決心の色を泛《うか》べて、「だが、そうなると、調べる室が二つ出来てしまったことになる
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