宸ヘ、ジイッと弾条《ぜんまい》の響を立てて、今|行《おこな》ったとは反対の方向に廻りはじめる。その時|固唾《かたず》を嚥《の》んで見守っていた一同の眼に、明らかな駭《おどろ》きの色が現われた。何故なら、その廻転につれて、文字盤が、左転右転を鮮かに繰り返してゆくではないか。そうしているうちに、ジジイッと、機械部の弾条《ぜんまい》が物懶《ものう》げな音を立てると同時に、塔上の童子人形が右手を振り上げた。そして、カアンと鐘《チャペル》に撞木《しゅもく》が当る、とその時まさしく扉《ドア》の方角で、秒刻の音に入り混《ま》ざって明瞭《はっきり》と聴き取れたものがあった。ああ、再び扉が開かれたのだった。一同はフウと溜めていた息を吐き出したが、熊城は舌なめずりをして、法水の側に歩み寄った。
「なんて、君という人物は、不思議な男だろう」
しかし法水は、それには見向きもせずに、すでに観念の色を泛《うか》べている津多子の方を向いて、「ねえ夫人《おくさん》、つまり、この詭計《トリック》の発因と云うのが、博士にかけられた貴女の電話にあったのですよ。しかし、それを僕に濃く匂わせたのは、現に抱水クロラールを嚥《の》まされているにもかかわらず、貴女が、実に不可解な防温手段を施されていたということなんです。あの、まるで木乃伊《ミイラ》のように、毛布をクルクル捲き付けられていなければ、恐らく貴女は、数時間のうちに凍死していたでしょう。痳酔剤[#「痳酔剤」はママ]を嚥《の》ませた、しかし、殺害の意志がない――。そういう解しきれない矛盾が、僕の懸念を濃厚にしたのでした。ところで夫人《おくさん》、あの夜|貴女《あなた》がこの扉《ドア》を開かれて、さてそれからどこへ行かれたものか、当ててみましょうか。いったい、薬物室の酸化鉛の瓶《びん》の中には、何があったのでしょう。あの褪《あ》せやすい薬物の色を、依然鮮かに保たせていたのは……」
「ですけど」津多子はすっかり落着いていて、静かな重味のある声音《こわね》でいった。「あの薬物室の扉《ドア》が、私がまいりましたときには、すでに開かれておりました。それに、抱水クロラールにも、その以前に手を付けたらしい形跡が残っていたのですわ。もう申し上げる必要はございませんでしょうが、あの酸化鉛の罎《びん》の中には、容器に蔵《おさ》めた二グラムのラジウムが隠されてあったのです。そ
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