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 それは、擬《まご》うかたないセレナ夫人の声であった。しかし、耳に入ると、レヴェズは喪心したように、長椅子へ倒れかかったが、彼はかろうじて踏み止まった。そして頭をグイと反らして、激しい呼吸をしながら、
「貴方《あんた》は、何かの機会《チャンス》に、一人の犠牲を条件に、彼女を了解させたのですか。もう儂《わし》には、この上釈明する気力もないのです。いっそ、護衛をやめてもらおう。|儂の血でこの裁きをしたら、いつか、その舌の根から聴くことがあるでしょうから《マイ・ブラッド・ジャッジ・ファベイド・マイ・タング・トゥ・スピーク》」と異常な決意を泛《うか》べて、あろうことか、護衛を断るのだった。そして、いっさいの武装を解いた裸身を、ファウスト博士の前に曝《さら》させることを要求した。それに、法水はまた皮肉にも、応諾の旨を回答して、室《へや》を出た。いつも、彼等がそこで策を練り、また訊問室に当てているダンネベルグの室では、検事と熊城がすでに夜食を終っていた。その卓上には、裏庭の靴跡を造型した二つの石膏型と、一足の套靴《オーバシューズ》が、置かれてあった。そして、それがレヴェズの所有品で、ようやく裏階段下の、押入れから発見されたことが述べられた。がその頃には、押鐘博士は帰邸していて、食事が済むと、今度は代り合って、法水が口を開いた。そして、レヴェズとの対決|顛末《てんまつ》を、赤いバルベラ酒の盃を重ねながら、語り終えると、
「なるほど、しかし……」といったんは頷《うなず》いたが、熊城は強い非難の色を泛《うか》べていった。「君の粋物主義《ディレッタンティズム》にも呆《あき》れたものさ。いったいレヴェズの処置に躊《ため》らっているのは、どうしたということなんだい。考えても見給え。従来《これまで》動機と犯罪現象とが、何人《なんびと》にも喰い違っていて、その二つを兼ねて証明された人物と云えば、かつて一人もなかったのだ。とにかく。序曲が済んだのなら、さっそく幕を上げることにしてもらおう。なるほど、君が好んで使う唱合戦も、ある意味では陶酔かもしれないがね。しかし、その前提に結論が必要なことだけは、忘れないでくれ給え」
「冗談じゃない。どうしてレヴェズが犯人なもんか」と法水は道化た身振をして、爆笑を上げた。ああ、世紀児法水――彼はあの告白悲劇に、滑稽《こっけい》な動機変転を用
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